研究概要 |
初期胚から樹立される胚性幹(ES)細胞は、分化多能性を維持したまま長期培養が可能であり、細胞移植療法の資源として期待されている。しかしながら、大脳皮質を構成する細胞は多種多様でそれぞれ独特の性質を有し、更に神経回路網は複雑である。幹細胞移植療法を再生医療として臨床応用していく上で、中枢神経系へ移植された神経細胞が宿主神経細胞と同等の情報伝達能力と正確なシナプス結合能力を有する事を証明する必要がある。本研究は、ES細胞由来神経前駆細胞(ES-NPCs)の移植条件を最適化する事を目的に研究を行った。1) ES-NPCsの免疫組織化学的解析を行った。ES細胞をマウスストローマ細胞との共培養法を用いて神経分化誘導を行った。分化の各過程で免疫染色を行い、その経時的変化を解析した。結果分化誘導後7日目で80%以上がNestin、RC2陽性、Oct4, SSEA1は1%以下という結果が得られ、そのほとんどが神経前駆細胞へ分化していた。次に、RT-PCR法を用いて分化開始後7日目のES-NPCsに発現している神経系の転写因子を解析した。その結果、Pax6, Emx1, Otx1,Foxg1といった前脳、特にその背側に発現される神経系の転写因子を発現している事が分かった。更にTbr1,Tbr2,CTIP2,Fezといった大脳皮質深部、第5層、6層錐体細胞前駆細胞に発現される転写因子も発現している事が分かった。更にES-NPCsから7日間、計14日間分化誘導を行うと、その約80%がMAP2ab、NeuNといった神経細胞マーカーを発現し、更に約40-50%でTbr1、CTIPs,0tx1といった大脳皮質深部錐体細胞のマーカーを発現している事が分かった。 以上より本方法を用いてES細胞から分化誘導すると、そのほとんどが前脳背側に特徴的な神経前駆細胞に分化する事が免疫組織学的及び分子生物学的に証明された。 平成22年度はこのES-NPCsをマウス脳へ移植してin vivoで成熟した神経細胞へ成長し、軸索・樹状突起を伸長させ神経回路網を形成出来るのかどうかを調べていく予定である。
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