研究概要 |
初期胚から樹立される胚性幹(ES)細胞は、分化多能性を維持したまま長期培養が可能であり、細胞移植療法の資源として期待されている。しかしながら、大脳皮質を構成する細胞は多種多様でそれぞれ独特の性質を有し、更に神経回路網は複雑である。幹細胞移植療法を再生医療として臨床応用していく上で、中枢神経系へ移植された神経細胞が宿主神経細胞と同等の情報伝達能力と正確なシナプス結合能力を有する事を証明する必要がある。本研究は、ES細胞由来神経前駆細胞(ES-NPCs)の移植条件を最適化する事を目的に進めれらえている。平成22年度までにES細胞からストローマ細胞との教培養法を用いて、神経細胞へ分化し、かつ免疫染色の結果からは皮質第5層の軸索投射性錐体細胞に特異的なマーカー(Tbr1、CTIP2、Otx1)を発現している事が分かった。またこのES-NPCsは大脳皮質背側のオーガナイザーとして昨日する特異的転写因子(Pax6, Emx1, Otx1, Foxg1)も発現している事が証明された。そこで、平成22年度は実際にこのES細胞由来の神経前駆細胞をマウス大脳皮質に移植して生体内での分化能を評価した。移植された細胞はGFPを恒常的に発現するため宿主細胞、組織との鑑別が出来る。ES細胞由来神経前駆細胞は宿主脳皮質深層内で、先端樹状突起を皮質表層へ伸長させ、多数の分枝を出し、かつ皮質下白質へ伸長している軸索を有し、形態学的に矛盾のない第5層錐体細胞へ分化していた。さらにこの樹状突起には多数の棘形成がみられ、周囲宿主神経細胞とシナプス形成し、シナプス・情報伝達に関与している可能性が示唆された。また移植脳切片に対する免疫染色ではCTIP2の発現をみとめ、第5層特異的な皮質錐体細胞である事も証明された。この研究結果をベースとして、平成23年度はこの移植細胞からの樹状突起、軸索が生体内で正確な神経回路形成能を有しているかどうかについて、GFPに対する免疫染色法で証明し、かつ実際に機能しているかどうかを軸索逆行性トレーサー(Fluoro-Goldなど)を用いて証明していく予定である。
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