小脳顆粒細胞(上向性線維)の2回連続刺激(ペアパルス刺激)に伴い、分子層介在ニューロンから記録される興奮性シナプス後電流(EPSC)の2回目EPSCの振幅値と減衰時定数が一過性に増大する現象を発見した(ペアパルス増強)。これらペアパルス増強の発現機序を明らかにするため、EPSCのキネティクスを初期相、ピーク相、減衰相に分けて詳しく解析した。2回目EPSC(刺激間隔:30ミリ秒)では、刺激からEPSC開始までの反応潜時が1回目EPSCよりも顕著に短縮していた。一方、EPSC開始点からピークまでの到達時間は延長していた。また、EPSC減衰相について、二重指数関数を適用して急速減衰成分(τ_<fast>)と緩徐減衰成分(τ_<slow>)に分離して解析を行い、減衰時間のペアパルス増強はτ_<slow>の構成比率(%_<slow>)増大により惹起されていることを見出した。さらに薬理学的手法を用いて、ペアパルス増強の分子基盤について検討を行った。グルタミン酸輸送体阻害薬TBOAは、τ_<show>と%_<slow>を共に増大させて減衰時間のペアパルス増強を昂進した。一方、グルタミン酸受容体の低親和性競合阻害薬γ-DGGは、振幅のペアパルス増強を促進すると共に、%_<slow>を減少させて減衰時間のペアパルス増強を減弱した。こうした観察結果に基づき、(1)振幅増大はシナプス小胞の放出確率と放出多重性が増大したこと、(2)減衰時間増大は放出多重性増大に伴い大量に放出された伝達物質グルタミン酸がシナプス外領域に拡散・蓄積したことにより引き起こされたと結論した。引き続き、活動電位の連続発生がEPSCキネティクスを変化させる分子的背景(Ca^<2+>チャネル、内在性Ca^<2+>緩衝システム、グルタミン酸輸送体の関与)を追究すると共に、脳の情報処理プロセスにおいて活動依存性の短期シナプス伝達増強が担う生理的役割を明らかにしようと検討を進めている。
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