脳において糖蛋白質など糖鎖を有する分子は細胞表面や細胞外に存在し、神経系の発生やシナプス活性の調節、成人における脳損傷からの再生過程などにおいて重要な役割を果たしている。ある特定の糖転移酵素を欠損したノックアウトマウスでは神経系の機能異常などが起こる。また、様々な臨床神経学的特徴を示す(N-結合型糖鎖の欠損により起こる)先天性グリコシル化異常症候群の解析から、神経系における糖鎖の重要性が高いことは明らかである。しかし、脳における糖蛋白質糖鎖の関与する分子機構は不明な点が多い。 本研究では新規糖蛋白質糖鎖の生理機能の明らかにすることを目的とする。我々は大阪大学大学院の深瀬浩一教授らと共同研究を行い、クラスター化された合成した新規シアル酸含有N-結合型糖鎖と結合する新規分子の探索を行っている。また、蛍光標識化したクラスター化合成糖鎖を用いて新規糖蛋白質糖鎖の局在を検討中である。 我々が開発した微量な糖蛋白質糖鎖を解析できる方法を用いて、脳内シアル酸の結合様式を網羅的に解析した。結果は投稿準備中である。また、中枢や末梢神経系の髄鞘の糖鎖の網羅的解析を行い、末梢神経系髄鞘に特徴的な数種類の硫酸化糖鎖の構造を決定した。末梢神経障害に関わる髄鞘糖蛋白質Myelin protein zeroの糖鎖に着目し、その主要な数種類の構造を明らかにした。 我々はN-結合型糖鎖解析過程でLewis X糖鎖構造の合成に関わる新規フコース転移酵素FUT10を見出した。マウス胎児脳においてFUT10がLewis X抗原と共発現していることを見出した。子宮内電気穿孔法を用いてFUT10がマウス胎児期における脳発達に重要な役割を担うことを明らかにした。 故に、平成22年度の研究計画はほぼ達成できたと考えている。
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