2007年にヒトiPS細胞が樹立され、眼科領域においては加齢黄斑変性などの再生医療を念頭にiPS細胞から視細胞への高効率な誘導が積極的に行われている。しかしながら、日本においては網膜神経節細胞が変性する緑内障が失明原因の第1位であるにもかかわらず、再生医療の研究は進んでいない。そこで、緑内障の再生医療を念頭に、iPS細胞から網膜神経節細胞および成体における網膜幹細胞であるMuller細胞を分化誘導する方法の確立、網膜内のMuller細胞の同定法の探索を行った。iPS細胞から網膜細胞への分化誘導は、まずRx陽性網膜前駆細胞に分化誘導する必要があるため、申請者はRx遺伝子座に赤色蛍光タンパク質DsRedが発現する組換えBACを作成しiPS細胞に安定導入した。このiPS細胞を網膜前駆細胞に分化誘導した後DsRed陽性細胞をセルソーターで純化することには成功しており、現在、液性因子の添加や遺伝子導入による網膜神経節細胞への分化誘導を試みている。また本研究ではMuller細胞の分化誘導も試みているが、Muller細胞のマーカー分子はそれほど多くない。そこでミューラー細胞のマーカー探索も行った。膵臓の幹細胞マーカーであることが報告されているEpiplakin1遺伝子の網膜における発現パターンを調べたところ、Muller細胞において発現が検出された。よってEpiplakin1はiPS細胞からMuller細胞を分化弓道した際におけるマーカーとしても利用できることが明らかとなった。我が国において、緑内障は糖尿病網膜症とともに高齢者失明原因の上位を占め、今後さらなる増大が予想される。本研究によって、網膜変性疾患に対するiPS細胞を使用した再生研究が進展すれば、高齢化を迎える日本社会全体のQOLを向上させることが期待される。
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