生後発達期の中枢神経系では、初期に一過性に過剰なシナプス結合が形成され、その後、神経活動依存的に必要な結合は強化され、不必要な結合は弱化、および除去される。このような過程を経て適正な機能的神経回路網が形成されると考えられている(シナプスの刈り込み)。しかし、これまで、実際の脳においてどのような神経活動パターンがこのシナプスの刈り込みを誘導する活動実態であるかはほとんどわかっていなかった。申請者は発達期小脳における登上線維-プルキンエ細胞シナプスの刈り込みを対象に研究を進めてきた。これまでに、複数の登上線維支配をうける発達期小脳における単一プルキンエ細胞から電気活動を記録したところ、複数登上線維シナプスが同期的に入力することを明らかにした。平成21年度の研究において、in vivoホールセルパッチクランプ法と2光子励起イメージングを組み合わせた実験によって、複数登上線維シナプスの同期入力で発生バースト発火が細胞内カルシウム上昇を引き起こすことを明らかにした。このことは複数登上線維の同期入力によってシナプスの刈り込みが誘導されることを支持している。平成22年度の研究において、シナプス入力の詳細な解析を行ったところ、複数登上線維の同期入力で発生するバースト発火の直前に入力するシナプスの強度が選択的に発達を追って、増強することを明らかとした。このことは、タイミング依存的なシナプス可塑性が登上線維シナプスの発達を促すメカニズムであることを支持する重要な知見である。さらに、この同期活動は登上線維の起始核である下オリーブ核神経細胞の同期活動によることが予想されるので、この活動を選択的に亢進する薬剤のハルマリンを腹腔より投与したところ、同期活動の発生頻度が増大することを明らかとした。このことはプルキンエ細胞で観察された同期的な入力応答が複数登上線維であることを支持する重要な知見である。
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