研究概要 |
我々が何かに注意(attention)を払ってそれをじっと見つめている(注視)時には、他の物が視野に入ってもそれを無視する必要がある(選択的注意)。これまで我々は眼球運動を訓練したサルにおいて大脳前頭眼野のサッケード抑制機能を電気生理学的に解析し、その部位に注視中に強い持続発火を示す注視ニューロンの存在を明らかにした。本研究は、前頭眼野とその主な投射先である上丘において電気生理学的方法と解剖学的方法を組み合わせ、この眼球運動の抑制と注視に関わる構造基盤を明らかにしようとするものである。注視は注意の外界への物理的表現と見なせるため、眼球運動の抑制と注視の過程に関わる一連の神経機構の解明は、注意の脳内機構を探る足がかりになる。 平成21年度は、注視、視覚誘導性サッケードおよび記憶誘導性サッケードを訓練したサルにおいて、前頭眼野の微少電流刺激を行いサッケードが誘発される古典的前頭眼野と、サッケードの発現が両側性に抑制される特定の部位を同定した。すなわち、前頭眼野の吻尾側方向および内外側方向において500μm間隔で電極を刺入し、深さ方向に400μm間隔で電極を進めながら80μA以下で電気刺激を行い、電気誘導性サッケードおよび視覚誘導性サッケードの抑制について深さ-閾値曲線のmappingを行った。サッケード抑制の低閾値部位を同定し脳組織標本を再構築した結果、この前頭眼野の抑制野は、prearcuate gyrusの弓状溝下行脚に面した限局した部位であることが確認された(Izawa et al., 2009)。
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