研究概要 |
我々が何かに注意(attention)を払ってそれをじっと見つめている(注視)時には、他の物が視野に入ってもそれを無視する必要がある(選択的注意)。これまで我々は眼球運動を訓練したサルにおいて大脳前頭眼野のサッケード抑制機能を電気生理学的に解析し、その部位に注視中に強い持続発火を示す注視ニューロンの存在を明らかにした。本研究は、前頭眼野とその主な投射先である上丘において電気生理学的方法と解剖学的方法を組み合わせ、この眼球運動の抑制と注視に関わる構造基盤を明らかにしようとするものである。注視は注意の外界への物理的表現と見なせるため、眼球運動の抑制と注視の過程に関わる一連の神経機構の解明は、注意の脳内機構を探る足がかりになる。 平成23年度は、前頭眼野の微少電流刺激により同定した滑動性眼球運動の抑制効果と、その部位の単一神経活動との関係について解析を行った。すなわち、前頭眼野の微少電流刺激により、電気誘導性サッケードが誘発される閾値より低い刺激強度で、滑動性眼球運動の発現が強く抑制される。この抑制は、catch-upサッケードを伴わない滑動性眼球運動においても認められ、滑動性眼球運動そのものが抑制されていることが分かった。さらに、サッケードの発現を両側性に抑制する前頭眼野の抑制野では、滑動性眼球運動の発現も両側性に抑制されることが明らかになった(Izawa et al.,2011)。本研究により、前頭眼野がサッケードのみならず滑動性眼球運動の発現も抑制し、注視の維持に重要な役割りを果たしていることが示唆された。サッケードと滑動性眼球運動は2つの異なった種類の眼球運動であるが、両者は共通の高次中枢により抑制性制御を受けていると考えられ、この結果は高次の脳機能の理解に繋がる。
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