大脳皮質の局所神経結合様式を詳細に記述することは、大脳皮質で情報処理が行われる仕組みを理解するうえで不可欠である。しかしながら、現在これを調べる主要な手法である相互相関解析は、共通入力成分や同期入力成分のため十分な解像度が得られないという問題がある。この問題を解決するために今回われわれは単一細胞に電気刺激を施し、それにより生じた細胞活動が、周囲の細胞のスパイク活動にどのような影響が生じたかを刺激電極の近傍に配置した32チャンネル多点電極アレイで測定する手法を確立し、これをネコ大脳皮質第一次視覚野に適用する研究を行った。8個の細胞で単一細胞の刺激に成功し、これらの細胞を電気刺激しているとこの近傍の合計248個の細胞活動を解析した。興奮性細胞を電気刺激して誘発したスパイクが、周囲の細胞のスパイク発火を生じさせる確率を見積もったところ、平均で2%程度であり、この上昇は統計的に有意なもとのみなすことができた。また、この確率は刺激細胞と、周囲細胞の受容野特性が似ているほど高いことがわかった(p<0.05)。抑制性細胞を電気刺激して誘発したスパイクが周囲の細胞のスパイク発火をキャンセルする確率は0.6%程度であったが、この確率の大きさは、電気刺激した抑制性細胞と周囲細胞の受容野特性の類似性には依存していなかった。以上の結果は、皮質の単一細胞が周囲の細胞のスパイク活動に、弱いながらも十分影響を及ぼし、この影響は受容野特性の類似性に依存していることを示している。これらの成果は、平成22年度の国内学での学会や招待講演で発表するとともに現在論文執筆中である。
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