本研究の目的は、把握運動を行っている際の筋活動の発生に脊髄介在ニューロンおよび大脳皮質一次運動野ニューロンがどのように貢献しているのかを、解剖学的・電気生理学的に比較・検討することである。本年度の研究成果として、把握運動中のニホンザルから記録された脊髄介在ニューロン活動が上肢筋活動の生成にどのように貢献しているのかを調べるために、(1)神経発火をトリガーとして筋活動を加算平均(Spike-triggered averaging)し脊髄介在ニューロンから各筋運動ニューロンプールへの投射を同定し、さらに(2)上肢筋群の協働パターンを因子分解法(非負値行列因子分解法)によって求め、(3)脊髄介在ニューロンの投射パターンと筋活動の協働パターンを比較した。その結果、解析した258個のニューロンのうち21個のニューロンにおいて、上肢筋活動への後スパイク促進効果(post-spike facilitation)が認められた。さらにクラスター解析を行い、どのような筋群が脊髄介在ニューロンからの共通した投射を受けているのかを検討したところ、手内在筋群、手指屈筋群といった解剖学的な協働筋群に脊髄介在ニューロンが発散した投射をしていることが明らかとなった。さらに、これらの筋肉のグループは因子分解法によって求めた協働パターンと有意に一致していることが明らかとなった。このことから、脊髄介在ニューロンの出力パターンが把握運動における筋肉の協働パターンの生成に貢献していることが示唆された。現在、大脳皮質運動野ニューロン活動に関しても同様の解析を進めており、両者の結果を比較することによって把握運動制御に関する脊髄・大脳皮質運動野の機能的差異を検討できることが期待される。
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