高次視覚野である下側頭葉に多電極アレイを埋め込んだマカクザルから、埋め込み後最大3ヶ月間に渡って神経細胞の視覚応答を記録し、記録の長期安定性を確認した。また弁別課題の前段階として、画像および画像の一部をマスクした視覚刺激を提示した際の神経活動の記録も行った。 代表者が課題採択後に移った研究室では、微小電気刺激よりも高時間・空間分解能で神経細胞の膜電位を操作できる、チャネルロドプシンによる光刺激の実験系の導入を進めている。本研究もこの光刺激系による実施を目指し、刺激/記録系を大幅に変更した。この系では刺激インターフェースを微小針電極から光ファイバーに変更する必要があるが、皮質活動の電気生理学的記録手段が無くなってしまうので、代替手段として光ファイバーを間に貫通させることが可能なメッシュ状の皮質脳波計測法(ECoG)用電極を東京大学工学部と共同で開発した。 このECoG用電極と微小電極アレイと同等の視覚情報が読み出せることを確認するため、両タイプの電極をサルの下側頭葉に埋め込み、注視課題中の視覚応答の同時計測を行った。それぞれの記録を用いてデコーディング解析を試み、顔情報(視覚刺激が顔画像であるか否か)から、顔の視角度(正面顔であるか左右側面であるか)や動物種(サルであるかヒトであるか)などの比較的細かな情報まで、両方の記録法からほぼ同程度に読み出すことができた。これによって新しい刺激/記録系の有効性を確かめることが出来た。この成果は日本生理学会(誌上開催)にて発表済みで、現在雑誌投稿の準備を進めているところである。
|