本研究では非侵襲的な検査法である非接触磁気計測手法をヒトに最も近縁な実験用霊長類であるカニクイザルに適応し、心臓の電気生理学的評価を行い、その手法のエビデンスを確認しながら、評価システムの構築や不整脈疾患モデルの樹立を試みる事により、心臓興奮・伝導異常のメカニズム解明を目指した。特に、その過程で得られる評価システムやモデルを利用し、病態の解明を行うことで、不整脈疾患などに対する新たな前臨床評価、新規診断基準の樹立へとつなげることも可能となる。本年度は主に下記の研究成果をあげた。 1) まず、非接触磁気計測装置、シールドルーム、モニター装置や同期用心電図などを組み合わせ、霊長類に特化した計測設備・手法の構築を行い、ヒト新生児相当の大きさのカニクイザルにおいて心臓磁場を計測する事に成功した。 2) 次いで1500頭規模からなるカニクイザル繁殖コロニーおよび施設内で維持されている老齢ザル群を対象に非接触磁気計測を順次開始し、これまでに約50頭の心臓磁場データを取得した。 3) さらに、霊長類心筋梗塞モデルの作成も開始し、心エコー、心電図、生化学マーカーなどの測定を経時的に行う事で、ヒト病態を忠実に反映した慢性化モデルである事を明らかにした。 4) ここまでの非接触磁気計測手法により得られたデータの集積および解析を行ったところ、霊長類の心臓磁場強度はヒト成人の半分程度であり、体重の相同するヒト胎児とほぼ同等である事が明らかとなった。さらに、イメージングとして得られるアローマップや加算平均波形はヒトとほぼ相同する正常な画像を得る事に成功した。これらの結果より時間幅や磁場強度など、カニクイザルの各種正常値を得る事に成功し、非接触磁気計測における診断基準が確立された。 なお、本年度は以上の内容を国内外の多くの学会に発表し、その成果を広く公開した。
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