本研究は非侵襲的に心臓電気生理動態を検査する事が可能な非接触磁気計測手法とヒトに近縁な霊長類を組み合わせることにより、新たな評価システムの構築・不整脈疾患モデルの樹立を試み、心臓興奮・伝導異常病態のメカニズム解明を目指したものである。本年度は霊長類心疾患モデルの評価および霊長類を用いた新たな安全性・毒性評価システムの樹立を目指し以下の成果をあげた。 1)引き続き体系的な霊長類の心磁計測を行う事によりデータの拡充を図った。それら得られた電流アローマップから最大ベクトル(MCV)と総和ベクトル(TCV)を求め、角度と強度を算出し、経時的変化を定量可能な新たな解析方法を適応する事で新たな評価基準を樹立し、解析結果の信頼性を向上させた。 2)心筋梗塞では中長期的なモデルにおいて心疾患マーカーの経時的変動を解析したところ、CPK、トロポニンT、BNPは急性期に一過性の上昇を示し、ヒトの病態をよく反映している事が明らかとなった。一方心磁計では同モデルにおいて脱分極、再分極時の電流を経時的に定量化したTCV、MCVで梗塞直後から長期的に異常値を検出可能である事が明らかとなり、心筋梗塞の急性から慢性期まで有用な診断方法であることが示唆された。その他、ここまで得られた左脚ブロック、WPW症候群、Burugada症候群、QT延長症候群、心筋症などの疾患が疑われる個体についてはその家系を追跡し、一部に血縁関係があるものを見出した。現在遺伝子解析や子孫の調査を開始しており、引き続き疾患モデルとしての樹立を目指す。 3)これまでに得られた評価基準や疾患解析の結果、本手法は霊長類において微細な電気生理学的変化を検出可能である事が明らかとなった。すなわち将来の創薬探索や心臓興奮・伝導異常の新規診断にも有用な非接触磁気計測手法と霊長類を組み合わせた新たな安全性.毒性評価システム系が樹立された事となる。
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