注意欠如多動性障害(AD/HD)とは、発達段階に不相応な注意力障害、衝動性、多動性を特徴とする行動障害である。本障害は多因子疾患である事が知られており、多様な遺伝的モデル動物が必要であると考えられている。ENU誘発突然変異によってAD/HD様の行動異常を示すモデルマウスの探索を行うとともに、表現型異常の責任遺伝子の同定を行った。その結果、open-field test(OF)で高活動を示したM-174、M-1736変異体を単離した。M-174変異体はのGrin1遺伝子にミスセンス変異を持つ事が明らかになった。この変異体に関して、行動特性、AD/HDの治療薬であるメチルフェニデート(MPH)への反応性、脳組織中のcFos発現の分布、ERKタンパクのリン酸化などを検討して論文として報告した。また、血算、血液生化学、血中アディポサイトカインの測定などを行った。その結果、血中グルコース濃度の増大や血中脂質(TG)、レプチン濃度の低下などを含む複数の異常が確認され、今後、分子メカニズムを解明することによる精神疾患や発達障害の診断への応用が期待される。さらに、M-174と同一の遺伝子の異なる領域に変異を持つ変異マウスをENU変異マウスの中から単離し、網羅的行動解析、血液、脳組織解析などにより両者の比較を行い、疾患モデルとしての有用性の検討を行った。M-1736変異体は大脳皮質樹状突起における微小管構造の異常、大脳皮質の層構造の異常が確認された。また、より詳細な表現型解析の結果、居住環境、新奇環境における高活動、新奇物体探索時間の減少、MPH投与による異常行動の改善が観察され、AD/HDモデルマウスとしての活用が期待される。また、胎児期に低栄養に曝露したマウスがヒト発達障害様の行動を示すかどうかを検討するため、低タンパク精製飼料を用いた妊娠マウスの飼育実験を行った。
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