【目的】肩甲骨の位置異常が投球障害肩の病態の一つであるインターナルインピンジメントに及ぼす影響を生体力学的に検討した。【対象と方法】新鮮凍結屍体7肩関節を、肩甲骨の位置を自由に設定できる肩実験装置に設置して実験を行った。すべての計測はlate cocking phaseをシミュレートして、肩関節90度外転位、最大外旋位で行った。まず肩甲骨の基本位置を、上方回旋30度、前方傾斜10度、内旋30度として計測を行った。続いて、肩甲骨の位置がインターナルインピンジメントにおよぼす影響を検討するために、(1)上方回旋と(2)内旋を10度ずつ増減させて計測し、最後に(3)前方傾斜を10度減少させて計測した。 3次元デジタイザ(Microscribe)を用いて大結節と肩甲骨関節窩との位置関係を記録し、それらの重なっている面積を計算した。この重なりは、インターナルインピンジメントによって損傷される可能性のある腱板の範囲を表す。また大結節と肩甲骨関節窩との間の圧力を感圧センサー(Tekscan)を用いて計測した。この圧力が高いほどインターナルインピンジメントによって腱板と上方関節唇が損傷される危険性が高くなると考えられる。統計学的検討にはTukey法とt検定を用いた(p<0.05)。 【結果】(1)上方回旋角度が減少することによって、大結節と肩甲骨関節窩との重なりは有意に増加した(20度:226mm2、30度:197mm2、40度:140mm2、p<0.01)。(2)肩甲骨の内旋角度が増加することにより、重なりは有意に増加し(20度:167mm2、30度:197mm2、40度:239mm2、p<0.05)、肩甲上腕関節に加わる圧力も有意に増加した(20度:1.5MPa、30度:1.7MPa、40度:2.1MPa、p<0.01)。(3)前方傾斜を変化させても統計学的に有意な変化を認めなかった。【結論】野球選手の肩甲骨内旋角度が増加している場合、あるいは上方回旋角度が減少している場合には、インターナルインピンジメントによる腱板損傷や関節唇損傷の危険性が高くなるため注意が必要である。肩甲骨の位置異常は投球障害肩を予防する上で重要な診察所見と考える。 以上の研究成果を国際学会、国内学会で発表し、論文を投稿中である。
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