呼吸の際、肺自体変形することによって気流が発生し、ガス交換や物質輸送が行われる。胸郭のような巨視的な運動はMRIを用いて観察した報告はあるが、肺胞のような微視的な動態観察の報告は少ない。また、気道末梢部位での気流速度が小さいため、末梢部位での物質輸送は主に分子拡散によるものと考えられてきが、近年、形状変形による複雑なミキシング効果があると報告されている。そこで、本研究では、高分解能放射光CTを用いた肺胞の動態解析および気流シミュレーションを行った。動態解析は、健常マウスを用いて大型放射光施設SPring-8で行った。本実験では安楽死したマウスにシリンジを気管に挿管し、ステップ的に肺体積を変化させながらin situで観察した。肺胞の直径は、FRC時は約40μmであったのに対し、TLC時は約80μmと増加した。肺胞道も大きく変形し、FRC時は約100μm、TLC時は約170μmであった。このような変形は、肺胞自体の周りの環境に大きな影響を受けることがわかった。特に呼吸細気管支と接しているような肺胞は、単純に大きくなるのではなく、肺体積が大きくなるにつれて押しつぶされるような様子も観察された。このような微視的な変形は、巨視的な肺全体の変形とは異なり、非線形・不均一であり、このような変形は不均一換気の要因の1つの可能性がある。実形状の肺胞モデルを用いた流体シミュレーションでは、モデル上部(口側に近い)肺胞では遅い流速にも関わらず肺胞内で渦が観察され、また末端部位の肺胞では放射線状の流れ場が観察された。また、肺胞内の物質輸送は、複雑な分岐形状により呼気と吸気の流れが異なり、それによるsteady streamingが支配的であることが示唆された。
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