研究概要 |
再生医療や創薬研究など様々な分野への応用が期待されているヒト人工多能性幹(iPS)細胞を用いて遺伝子ターゲッティング効率(GT ; Gene targeting)が高い細胞を創製するために、染色体中へのランダムな組み込み経路(RI ; Random integration)で重要な役割を果たす事が予想されるDNAライゲース遺伝子群及びKU70遺伝子をノックアウトしたヒトiPS細胞株の樹立を試みた。元々、相同組換え効率の低いヒトiPS細胞における遺伝子ノックアウトには、申請者らがヒトES細胞で確立したヘルパー依存型ウイルスベクター(HDAdV)を用いた高効率相同組換え法を用いた。 今年度は、昨年度に樹立したKU80, LIG1, LIG3遺伝子座のヘテロ変異株の解析を行った。これらの変異体については、RNAとタンパクのレベルで、発現が約半分に減っていることを確認した。先ず、これら3種のヘテロ変異株の増殖速度については、野生型iPS細胞に比べて違いはなかった。次に、これら変異体のDNA修復能を解析するために、etoposide(二本鎖DNA切断誘導剤)とcamptothecin(一本鎖DNA切断誘導剤)に対するする感受性を測定したところ、遺伝子機能からの予想通り、LIG1とLIG3のヘテロ変異ではcamptothecinに対する感受性が見られたが、KU70ヘテロ変異体にはetoposide感受性は見られなかった。また、テロメア長を測定したところ、KU70ヘテロヒト大腸がん細胞での報告と異なり、テロメア長の短縮は見られなかった。さらに、エレクトロポレーション、AAVベクター,HDAdVベクターを用いたHPRT遺伝子座におけるGTの頻度を、正常iPS細胞とKU70ヘテロ細胞とで比較したが、その頻度に差は見られなかった。このことにより、KU70のhiPS細胞における機能は体細胞とは異なることが示唆された。
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