我々は、癌/精巣抗原を標的とした早期癌診断方法の確立を目指しており、その必須条件となる早期癌および癌化直後の細胞での癌/精巣抗原の発現の可能性について言及してきた。我々は、癌化した細胞に限り、発癌因子によって癌/精巣抗原の発現誘導が起こることを前年度まで明らかにした。本研究では、マウスにおいて特定の発癌因子Helicobacter pylori(H. pylori) が特定の癌/精巣抗原Mage-A3を誘導することも明らかにした。以上のことから、ヒトの癌においてもH. pyloriによって誘導される癌/精巣抗原の存在を確認する必要がある。本邦における胃癌の8割はH. pylori感染によるものと報告されている。したがって当該年度は胃癌における癌/精巣抗原の発現とH. pylori感染との関連性について予備的検討を実施した。 当病院の進行癌の胃癌患者より採血し、血清を回収した。同一患者の胃癌摘出後回収した胃より癌部位の1部を回収し、RNA抽出、cDNA合成を実施し、MAGE-A1、MAGE-A3およびNY-ESO-1についてはリアルタイムPCRにて、KK-LC-1については従来のRT-PCRにて癌/精巣抗原の発現解析を実施した。胃癌におけるKK-LC-1、MAGE-A1、MAGE-A3およびNY-ESO-1の発現頻度は79%、38%、48%および24%であった。また、胃癌患者血中H. pylori抗体価はKK-LC-1の発現が認められる症例で高値を示すことがわかった(p=0.0046)。なお、他の癌/精巣抗原の発現の有無とH.pylori抗体価との関連性については認められなかった。抗H. pylori IgGが高値である症例の胃癌では、KK-LC-1の発現が認められた。H. pyloriは胃癌を誘導すると共に、癌/精巣抗原KK-LC-1の発現も誘導する可能性が示唆された。
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