研究概要 |
運動を繰り返すことでその運動のパフォーマンスは改善する.立位におけるリーチ動作も繰り返すことで運動時間が短縮し,運動速度が増加する.この時の姿勢筋活動の変化を観察することで運動学習における姿勢制御の役割を調べた.健常成人15名を対象とし,静止立位をとらせた.音刺激後,リーチ可能な最大距離に設置した目標物へリーチングさせた.1日に100試行,3日連続で行わせ,休息を1日取らせた翌日に再度100試行記録した.また,三ヶ月後にも同様に記録した.三次元動作解析システムにより身体部位の軌跡や関節角度を,筋電計で8つの下肢筋を記録した.その結果,初日,リーチ動作のパフォーマンスは繰り返しにより有意に改善した.加えて,姿勢筋は繰り返しにより有意に早く活動を起こした.また,筋活動量も増加した.さらに,この姿勢筋の筋活動はリーチ動作のパフォーマンスと有意に相関し,パフォーマンスよりも少ない繰り返しで大きく変化した.2-3日目の1-10試行における筋活動量は,初日と比較して有意に増加し,その効果は休息を1日取った後も持続した.この持続は三ヶ月後にも確認できた.これらの結果は,姿勢制御の変化がパフォーマンスの改善に寄与する可能性を示唆する.また,その変化は一時的な適応性変化ではなく,長期増強などによる学習による効果である可能性が示唆される.リハビリテーションでは目的動作の繰り返しによる運動の改善を目指すことが多いが,本研究の結果から,姿勢筋の役割に着目した治療が目的動作の改善につながる可能性が高いと考えられる.このように,本研究の結果は患者に適切な治療を提供するための一助となる意義のある結果であった.さらに本研究を進め,運動学習における姿勢調節を制御する中枢神経系の役割を詳細に理解することが今後の重要な課題となる.
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