研究概要 |
健常成人と高齢者における運動パフォーマンスの改善と姿勢制御の学習過程を調べることを目的に,リーチ可能な最大距離に設置した目標物へのリーチ動作を運動課題として繰り返し行わせた.このときの運動時間,手の運動速度,体重心の運動速度,関節角度変化などを運動パフォーマンスとして,また両下肢の前頸骨筋,腓腹筋,大腿直筋,大腿二頭筋の筋活動を姿勢制御のパラメーターとして記録した.被験者には静止立位をとらせ,音刺激後,目標物へリーチングさせた.1日に100試行繰り返させた.これを3日連続で行わせ,休息を1日取らせた翌日に再度100試行繰り返させた.さらに,三ヶ月後にも同様の方法で100試行記録した.リーチ動作を100試行繰り返し行わせた初日,運動時間は有意に短縮し,右手の最大速度は有意に増加した.足関節背屈角度は駆動期で,股関節屈曲角度は制動期でともに有意に増加した.駆動期の前脛骨筋と制動期の腓腹筋の積分筋活動量は有意に増加した.リーチ動作を数日行うことで5日目にはほとんどの変数で有意な学習効果が認められた.さらに,三ヶ月後も,運動時間と右手の最大速度,駆動期の前脛骨筋の積分筋活動量,足関節背屈角度は学習効果が保持された.リハビリテーションでは目的動作の繰り返しによる運動の改善を目指すことが多いが,本研究の結果から,姿勢筋の役割に着目した治療が目的動作の改善につながる可能性が高いと考えられる.このように,本研究の結果は患者に適切な治療を提供するための一助となる意義のある結果であった.さらに本研究を進め,運動学習における姿勢調節を制御する中枢神経系の役割を詳細に理解することが今後の重要な課題となる.
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