姿勢及び運動制御への加齢の影響を調べるために健康若年者41名(平均20.7歳)と健康高齢者35名(平均69.3歳)を対象に足圧中心(COP)を用いた視覚誘導型追跡運動課題を行った。 COPに関する視覚的フィードバック情報と追跡する目標を眼前のモニターに同時に提示し、被験者にCOPを目標に正確に、遅れずに重ね合わせるよう指示した。この時、床反力、下肢の関節運動及び筋活動を記録した。 高齢者群のCOP最大移動距離は若年者に比べて有意に低下していた。高齢者の股関節運動とCOP運動との間に有意な相関関係がみられ、高齢者が主に股関節戦略を用いる過去の研究報告と一致した。一方、若年者の各関節運動はCOP運動と有意な相関関係を持たなかった。このことは高齢者の姿勢戦略はステレオタイプで自由度が乏しく、対照的に若年者の姿勢戦略は冗長性をもつことを示唆する。筋活動の年齢差は二関節筋である膝関節屈筋群にみられ、高齢者ではCOP運動との問に有意な相関関係を示していたのに対し、若年者では有意でなかった。これらの結果より、加齢による姿勢戦略の選択の低下に膝関節屈筋群の働きが関係していることが示唆された。 フィードバック系の運動制御(特に、制動能力)への加齢の影響を調べるため3つの運動停止課題(ステップ課題、ランプ課題、サイン課題)を用いた。運動開始に対する反応は若年者に比べて高齢者で有意に遅延していた。高齢者の運動停止までの所要時間も若年者に比べ有意に延長し、また、反応時間を引いた停止合図から運動停止までの時間も有意な延長を認めた。サイン課題でも同様の結果であった。さらに、ステップとランプ課題における運動合図後の推進力の持続時間に年齢差を認めなかったが、高齢者の制動力の持続時間に年齢差を認めた。このことから、加齢により運動制御、特に、制動能力の低下を引き起こすことが明らかとなった。
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