本申請研究の目的は、他者が行う運動を模倣するとき、どの筋を活動させるかという情報のみならず、どの筋の活動を抑制するかという情報も模倣する事が出来るかを調べるという事、さらにその知見を応用して脳卒中後の巧緻運動障害に対する運動機能改善を目的とした治療法を検討する事である。最終年度にあたる本年度は、実際に脳損傷後の片麻痺患者に対して、特に巧緻運動に障害がある患者において、他者が脱力を行う視覚情報が、患者の力の脱力に影響を与えるかを調べた。実験は、障害機能の個人間偏差を減らすために、損傷部位が被殻(左被殻出血2名、右被殻出血3名)の患者5名に絞り行った。全被験者は、Brunnstrom stageが3以上で、発症後1年以上経過していた。実験条件は、一人称視点で他者の手指が伸展・脱力を繰り返す動画を見ながら同時に模倣する他者運動模倣条件と自己の手指を観察しながら手指の伸展・脱力を行う自己運動観察条件の2条件を行い、この2条件における第2指MP関節の可動域を計測した。結果は、5人中4名で他者運動模倣条件の方が、自己運動観察条件と比較すると、手指の運動範囲が平均12%程度大きかった。この条件間差は、1試行において10回手指の開閉を行うが、特に後半5回において大きい傾向があった。以上より、運動回数を重ねるにつれて見られる手指の硬さによる運動範囲の低下は、他者運動の模倣により軽減することが示唆された。
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