近年、運動療法を補完する方法として、運動イメージ・観察を用いたメンタルプラクティス(mental practice : MP)が注目されている。MPをリハビリテーションに応用する理論的根拠としては運動イメージ・観察中には運動の出力がないにも関わらず、実際の運動遂行時とほぼ同様の脳活動が生じることである。しかしながら、歩行観察中の中枢神経系の活動については未だ不明な点が多い。そこで、本研究の目的は大脳皮質の制御を必要とする歩き始めや障害物回避などの観察中に歩行周期に依存した皮質脊髄路の興奮性変化が生じるかを明らかにすることである。 本年度は健常者を対象に歩行観察中に経頭蓋磁気刺激によって前脛骨筋から誘発される運動誘発電位を指標に皮質脊髄路の興奮性の変化を検討した。観察する課題は、1) スクリーン上の黒い画面(コントロール)、2) 静止立位から左足から3歩歩く動作(通常歩行)、3) 静止立位から左足から歩き始め右足で障害物を跨ぎ不安定面に接地する動作(跨ぎ歩行)の3種類とし、それぞれ右脚の遊脚初期、遊脚中期、踵接地、立脚中期、踵離地のタイミングで経頭蓋磁気刺激を行った。その結果、通常歩行観察では遊脚初期のみでコントロールより運動誘発電位が増大した。一方、跨ぎ歩行の観察中は遊脚初期に加え、遊脚中期、踵接地で運動誘発電位が増大した。先行研究では5-10分間歩行をしている状態の観察時には歩行周期に関係なく運動誘発電位が増大することが報告されているが、本研究で歩行観察課題はどちらも静止立位から数歩歩き始める歩行であったため、歩行周期に依存した皮質脊髄路の興奮性の変化が生じたと考えられた。 このような結果を踏まえ最終年度となる来年度は、歩行観察と連合性ペア刺激の組み合わせにより相乗効果が得られるか否かについて、研究を進めていく。
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