研究概要 |
近年,運動療法を補完する方法として,運動イメージ・観察を用いたメンタルプラクティス(mental practice : MP)が注目されている.また,麻痺肢の運動機能の回復には運動を起こそうとする意志が重要であることも示唆されている.そこで,本年度は歩行観察のみを行う場合と歩行観察しながら,実際に観察課題と同様に歩行するイメージを行わせた場合の皮質脊髄路の興奮性変化について比較,検討した. 観察課題は,1)スクリーン上の黒い画面(コントロール),2)静止立位から左足より3歩歩く歩行(歩行観察)とし,歩行イメージ条件では歩行観察中に観察者に課題と同様に歩行するイメージ想起を行わせた.それぞれ,右脚の遊脚期と立脚期のタイミングで経頭蓋磁気刺激を行い,右側前脛骨筋より運動誘発電位を記録した.その結果,歩行観察条件では遊脚期にコントロール条件より運動誘発電位が増大したが,立脚期では有意な変化を認めなかった.一方,歩行観察に歩行イメージを付加した条件では,遊脚期と立脚期ともに運動誘発電位が増大した. 以上の結果より,歩行観察のみと比較して,歩行観察しながら歩行イメージを想起する場合,遊脚期に加えて,立脚期においても運動誘発電位が増大することが明らかとなった.実際の歩行中の立脚期では,前脛骨筋に筋活動が生じないにも関わらず,皮質脊髄路の興奮性が増大することが報告されている.したがって,歩行観察のみと比較して,さらに歩行イメージを付加することで,より実際の歩行中と同様の変化が中枢神経内に生じることが示唆された.本研究の結果から,歩行機能回復のためにメンタルプラクティスを用いる場合,ただ観察するだけでなく,観察課題と同様のイメージを想起させることが,機能回復により効果的であることが示唆される.
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