研究概要 |
本研究は,若年者と高齢者の手指感覚識別時の手指循環動態,および手指感覚閾値を測定し,加齢による手指循環調節能と手指感覚機能変化について検討した.対象は女性高齢者20名(78±8歳),および若年者23名(23±6歳)であった.手指感覚識別課題として,右手示指を使用して机の裏面に設置した点字プレートを解読する課題を実施した.この課題施行時にみられる手指皮膚血流量(レーザー血流計)および心拍数,血圧の変動を測定した.また,手指感覚閾値の測定にはSemmesタッチテストを実施し,高齢者と若年者のデータを比較した.その結果,高齢者群の手指感覚閾値圧覚閾値(1og_10force)は平均で3.3±0.6であり,若年者群の2.5±0.2よりも高い値を示した.手指感覚識別時の手指皮膚血流変動は,高齢者群で平均-6±6%であったのに対して,若年者群では識別中に平均で-15±13%程度まで減少した.また手指血流量の経時的変動は,若年者群において血流変動が速く起こるのに対して,高齢者群ではゆっくりと変動した.この影響は,両群における最大変動値到達時間の差にも表れた.さらに,高齢者群における手指血流応答と感覚閾値との相関係数はr=0.582(P<0.05)であった.本研究結果より,手指圧覚閾値が若年者よりも高齢者で高い値を示したことから,手指感覚においても,他の感覚同様に加齢により低下すると考えられる.一方で,感覚識別時の手指血流量は,若年者において著しく減少するのに対して,高齢者では少ない反応しか起こらず,また両群の感覚識別時の血流調節応答速度に違いがあった.これらの結果から,加齢による自律神経機能の低下が感覚識別時の手指血流量変動を減少させと考えられた.さらに,高齢者の手指血流変動量と手指感覚閾値との関係には相関関係がみられたことから,手指循環調節能の低下と感覚機能の減弱との関連が示唆された.
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