平成21年度の研究では、手指の感覚情報処理にともなう手指血流量変動量が加齢により減少することを明らかにした。さらに、この手指血流変動の応答は感覚機能減弱にも関連していた。一方で、この手指循環調節能の加齢性変化は手指体積変化に反映し、皮膚物性値に作用して体性感覚感度を変調させていたのかもしれない。そこで本年度は、手指容積変化の感覚感度に対する効果を明らかにすることを目的とした。血液分布への静水圧の作用を利用して、手の位置を心臓の高さを基準とし上下に設置することで血液分布量を変化させられる。これらのポジショニング条件下で感覚機能がどのように影響受けるのかを調査した。方法は、手部を心臓の高さから25cm、0cm、-25cmの位置にそれぞれ5分間設置した場合の手指容積の変化とSemmesタッチテスト法による感覚閾値検査を行った。容積変動はラバーストレンゲージ法にて測定した。実験は健常高齢者23名を対象として実施した(23名の内4名はMMSEにおいて24点以下であったため解析データから削除した)。その結果、手の位置が心臓の高さよりも上方に設定した場合は手指容積が徐々に減少したが、低い場合には徐々に増加することを確認した。またそれぞれの手の位置における感覚閾値は0cmで3.52±0.59log_<10>0.1mg、25cmでは3.36±0.58 log_<10>0.1mgと低下傾向にあった。一方で、-25cmの場合には3.77±0.73log_<10>0.1mgと閾値は有意に上昇した(P<0.01)。これらの結果は、手部の血液に負荷される静水圧の影響が手指容積を変化させ、皮膚物性値に影響して感覚感度を減弱させていることを示唆する。
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