今年度は中枢神経系および末梢神経系における神経栄養因子ミッドカイン(MK)の発現や働き、運動回復について検討した。「実験1」小泉らの方法に基づいて、内頚動脈より長さ16mmのナイロン糸を挿入して中大脳動脈の虚血再潅流を90分間行い、実験的脳梗塞モデルラットを作製した。脳梗塞作製前にトレッドミル運動や遊具などの入った自発運動が可能な環境での飼育を行い、脳梗塞巣に及ぼす影響を組織化学的に観察した。免疫組織化学的検索より、脳梗塞巣周辺における神経栄養因子ミッドカインの発現が観察された。トレッドミル運動や自発運動が可能な環境での飼育は脳梗塞発症後のMKの発現を増加させ、脳梗塞巣の大きさも縮小傾向にあった。「実験2」MKノックアウト(MK-/-)マウスを使用して、一側の坐骨神経をヒラメ筋進入部から約10mmの部位で液体窒素の中で冷却したステンレス製の薬さじを数回接触させ凍結と融解を繰り返し損傷した。損傷後、末梢側坐骨神経とヒラメ筋を採取して、光学顕微鏡と電子顕微鏡でミッドカインワイルドタイプ(MK+/+)マウスと比較した。その結果、MK+/+マウスのヒラメ筋筋湿重量は1週後には最も減少し、その後増加した。反対にMK-/-は損傷2週後に最も減少し、その後増加した。坐骨神経の形態学的変化は、MK+/+マウスにおいて、損傷3週後に小さな再生軸索が観察されたが、MK-/-マウスは1週遅れて4週後に多数の小さな再生軸索が観察された。ヒラメ筋における神経筋接合部において、MK+/+マウスでは観察した神経筋接合部(20個)すべてに3週後には、小さなシナプス小胞を持つ神経終末が観察された。MK-/-マウスには1週遅れて4週後にシナプス小胞を持つ神経終末が観察された。MK-/-マウスは末梢神経のワーラー変性が遅れることにより神経再生が遅れることを示した。
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