本年度は、昨年度までの研究成果を踏まえ、痙性麻痺完成後の拘縮に対する伸張運動・温熱療法、寒冷療法の治療効果を検証した。温熱療法あるいは寒冷療法単独では、治療効果が認められなかったが、それらを伸張運動と併用することで、伸張運動単独よりも、拘縮が改善した。また寒冷療法よりも温熱療法の改善効果が高かった。本実験では、温熱療法、寒冷療法ともに水浴を用いたため、効果が表在性に留まり、筋の変性の改善に有効であったが、関節構成体の変性を改善するためには、伸張運動による機械的刺激が不可欠であることが示された。昨年度までの研究では、脊髄損傷直後から伸張運動と物理療法の介入を行った。すなわち予防効果を検証した。その結果、伸張運動.温熱療法ともに単独でも拘縮の改善に効果があり、その効果は伸張運動で最も高く、本年度の結果とは異なっていた。予防を目的とする場合には伸張運動単独でも有効であるが、治療効果を目的とする場合には伸張運動と物理療法、特に温熱療法を併用することが有効であり、目的に応じて介入方法を選択する必要性が示唆された。組織化学的、生化学的分析の結果、初期の拘縮の進展の原因は、滑膜の関節面への癒着であり、その後関節包の線維配列の不規則性が関与することが示唆された。また拘縮の発生には、細胞外マトリックスの質的な変性よりも、組織構築的な変性の影響が大きいことも示された。これらの変性は、伸張運動の方法と時間に関わらず、高負荷で行う、ことにより、予防並びに治療し得ることが明らかになった。
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