研究概要 |
廃用性筋萎縮の治療では,運動負荷によって起こる筋傷害を予防しつつ,萎縮の早期回復を図ることが望ましい.本年度は,熱刺激によって骨格筋内に発現するストレスタンパク質であるHeat shock protein(HSP)に着目し,廃用性萎縮筋に対する安全かつ効果的な筋萎縮治療方法と新たな筋傷害の予防方法の開発を目的に以下の予備実験を行った. 1.繰り返しの熱刺激による骨格筋内HSP70の発現状況について ラットヒラメ筋を対象に,24時間毎に繰り返し与えられる熱刺激によって,骨格筋内のHSP70発現量が変化するのかを検討した.その結果,1回の熱刺激を加えた時のみ,無処置のヒラメ筋と比べて有意なHSP70の発現を認めた.このことから,骨格筋に対して24時間毎に繰り返し熱刺激を加えても骨格筋内にHSP70が発現されないため,24時間以上の間隔を空けて熱刺激を加える必要があることが推察された. 2.熱刺激によるデキサメタゾン誘導性の筋萎縮の進行抑制効果について 熱刺激がどのような細胞内メカニズムを介して筋萎縮の進行を抑制するのかを探る手始めとして,培養骨格筋細胞に熱刺激を負荷し,デキサメタゾン誘導性の筋萎縮の進行抑制効果について形態学的に検討した.その結果,培地へのデキサメタゾン添加により筋管細胞の横径が細くなる筋萎縮様の現象が観察され,その萎縮様変化は熱刺激の負荷により抑制できることを確認した.今後は,本実験モデルを用いて熱刺激による筋萎縮の進行抑制に関わる細胞内メカニズムを解明していき,筋萎縮の予防や回復促進を目的とした科学的根拠に基づく治療方法の確立に繋げたい.
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