上肢の運動障害は日常生活の質を著しく低下させるため、より効率的に機能回復が可能なニューロリハビリテーションの確立が望まれている。本研究では、研究のゴールを上肢における力制御の再獲得可能なニューロリハビリテーションの確立を設定しており、今年度はその基礎となる健常者の手指における精密な力制御の運動制御機構について、電気神経生理学的手法を用いて明らかにすることを目的とした。 健常被験者は「把持物体を普通に持つ(NP課題)」と「把持物体を落とさずにできるだけ力を少なくして持つ(GP課題)」2種類の方法を用いて50-400gのマニピュランダムを親指と人差指とで把持し、その間に経頭蓋磁気および電気刺激を皮質運動野上に与えた。マニピュランダムの把持力、第一背側骨間筋の筋放電量、および両刺激から表面筋電図上に誘発される運動誘発電位の振幅値およびその後に出現する筋電図消失期間を解析した。全ての重量のマニピュランダムにおいて、把持力および第一背側骨間筋の筋放電量はGP課題に比して、NP課題で約2倍大きかった。また、経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位および筋電図消失期間はNP課題に比して、GP課題で有意に大きかった。その一方、経頭蓋電気刺激よる運動誘発電位および筋電図消失期間は両課題間で有意差は認められなかった。以上の結果より、精密な力制御時においては、皮質運動野の興奮性および皮質内の抑制の増大が貢献している可能性が示唆された。
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