効率的な運動機能回復が可能なニューロリハビリテーションの開発のための基礎研究として、昨年度は手指による精密把持中の運動制御機構について電気生理学的に検討を加え、手指の精密な力制御時においては、皮質運動野の興奮性および皮質内の抑制の増大が貢献している可能性が示唆された。今年度は、この結果に加えてさらなる精密把持中の運動制御機構の解明を行うために、脳波・筋電図コヒーレンス用いて、精密把持中の一次感覚運動野と脊髄運動ニューロンプールの活動の同調性について明らかにすることを目的とした。昨年度と同様の2種類の物体把持課題(NP課題;マニピュランダムを人差し指と親指で普通に把持する、GP課題;マニピュランダムを落とさない必要最小限の力で把持する)中に、被験者の一次感覚運動野近傍の脳波および第一背側骨間筋、母指球筋、浅指屈筋より表面筋電図を記録した。その後、周波数領域における相互相関を算出する脳波・筋電図コヒーレンス解析を行い、13-35Hzのベータ帯のピーク値を計測した。その結果、脳波-筋電図コヒーレンスのベータ帯のピーク値は、NP課題に比して、GP課題で増大する傾向が認められたが、有意差は検出されなかった。またコヒーレンスのピーク値は0.1以下で低い値であった。以上より、一次感覚運動野と脊髄運動ニューロンプールの同調的活動は、手指の精密な力制御には深く関与していない可能性が示唆された。昨年度の結果も合わせると、手指の精密な力制御時では、皮質運動野の興奮性および皮質内の抑制の増大が主に貢献していることが明らかになり、効果的なニューロリハビリテーションにおいては皮質運動野の興奮性および皮質内の抑制の増大させる方法が効果的である可能性が示唆された。
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