研究概要 |
大腿切断者にとって日常生活で頻繁に遭遇する階段を、両脚で交互に昇ることは極めて難しい。この原因として、義足肢における立脚相の「膝折れ」と遊脚相の「つまずき」という二つの問題が挙げられる。しかしながら、極めて稀ではあるものの、手すりや高価な動力義足を一切使用せず、両脚で交互に階段を昇る大腿切断者も少なからず存在する。本研究の目的は、熟練した運動技能を有する大腿切断者の昇段動作を調べ、大腿切断者の歩行リハビリテーションや義足開発に有用な知見を得ることであった。 被験者は両脚で交互に階段を昇ることができる片側大腿切断者1名とした。外傷による切断後43年が経過し、断端長は30.5cmであった。なお、実験時には被験者が使い慣れた膝継手(3R45,Otto-bock)および足部義足(C-Walk,Otto-Bock)を着用させた。運動課題は実験室内に設置した階段を利用し、一足一段法による昇段を行わせた。このとき、被験者の全身19箇所に体表マーカーを貼付け、光学式モーションキャプチャーシステムを用いて、昇段中の全身を毎秒60コマで撮影した。撮影した映像をもとに、矢状面における下肢関節角度およびつまさきに貼付したマーカー位置の解析を行った。その結果、この切断者は立脚初期に膝継手を完全伸展位で固定することで「膝折れ」を防いでいること、そして遊脚初期には義足を一旦後方へと振り上げることで「つまずき」を回避していることが明らかとなった。以上のことから、大腿義足を使用していても、残存部位による補償動作を巧みに利用することで階段を交互脚で昇れる可能性が示唆された。
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