研究概要 |
大腿切断者にとって日常生活で頻繁に遭遇する階段を、両脚で交互に昇ることは極めて難しい。この原因として、義足肢における立脚相の「膝折れ」と遊脚相の「つまずき」という二つの問題が挙げられる。しかしながら、極めて稀ではあるものの、手すりや高価な動力義足を一切使用せず、両脚で交互に階段を昇る大腿切断者も少なからず存在する。本研究の目的は、熟練した運動技能を有する大腿切断者の昇段動作を調べ、大腿切断者の歩行リハビリテーションや義足開発に有用な知見を得ることであった。 被験者は両脚で交互に階段を昇ることができる片側大腿切断者4名とした。切断原因は外傷が3名,感染症が1名であった。各被験者は切断後1年から43年が経過しており、断端長は長断端が2名、中・短断端が各1名であった。実験時には被験者が使い慣れた膝継手を着用させたが、4名全員が単軸で、且つ、膝継手の屈曲・伸展抵抗を最小の値に設定していた。運動課題は実験室内に設置した階段を利用し、一足一段法による昇段を行わせた。このとき、被験者の全身5箇所に体表マーカーを貼付け、2次元動作解析ソフトを用いて、昇段中の全身を毎秒30コマで撮影した。撮影した映像をもとに、矢状面における下肢関節角度の解析を行った。その結果、全被験者が立脚初期に膝継手を完全伸展位で固定することで「膝折れ」を防いでいること、そして健側で反動動作および底屈を行うことで「つまずき」を回避していることが明らかとなった。以上のことから、切断年数・断端長にかかわらず、膝継手特性および健側での補償動作を組み合わせることによって、大腿義足ユーザーが健常者と同様の両脚交互昇段を獲得できる可能性が示唆された。
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