MRIによる脳内機能的結合性評価のリハビリテーション科学への応用を目指し、安静状態下での機能的結合性の特性に関する基礎的検討として、機能的結合性と神経線維連絡の関係に着目した研究を行った。平成21年度に実施した実験により、先天的に脳梁の全部分が欠損している者(脳梁全欠損者)を被験者とし、左右大脳半球を連絡する交連線維が先天的に欠如しているにも関わらず、脳梁を有している健常例と同等の半球間機能的結合性が認められる結果を得ていたため、この研究成果を平成22年度に開催された16th Annual Meeting of the Organization for human Brain Mapping、および第33回日本神経科学大会にて報告した。さらに、先天的に脳梁が部分的に欠損している者(脳梁部分欠損者)を新たに被験者として招き、交連線維の残存状態と半球間機能的結合性との関連について実験的に検討したところ、交連線維の結合を有しない脳部位間においても機能的結合性が認められることが明らかとなった。脳梁全欠損者を被験者として行った実験結果と併せ、これらの結果は、半球間機能的結合性は神経線維連絡を基盤とする、という従来の学説とは異なる結果を示しており、学術的意義が高い。さらには、実験に参加した脳梁欠損者は、先天的に脳構造が健常例とは異なるにも関わらず、知的機能は健常例と同等であり、さらには、脳の機能的活動状態も健常例と同等であることから、長期に渡る脳の成熟過程を通じて、代償的な神経機構が構築されたことが示唆され、リハビリテーションの理論的基盤となる脳の可塑性についても、新たな知見を与えるものと考えられる。
|