本研究は、特異的言語発達障害(SLI)児の、(1)母語音韻知覚能力、(2)事物-音声ラベルの対応付けによる単語学習能力、(3)統計的遷移確率に基づく単語抽出能力の3項目を検討することを目的とし、言語発達の遅れの要因となるSLIの音韻処理の弱さ、及び語彙習得困難の背景にあるメカニズムの実証的解明を目指す。平成22年度は、特に項目(1)(2)を遂行するために昨年度~開発を続けている「異音選択課題(oddity task)」、「異同判断課題(same-different task)」、「未知語学習・同定課題(unknown word learning and identification task)」、「既知語同定課題(known word identification task)」を設定し、正確な反応時間の測定が可能であるipadへの実装を行った。さらに、装置の有効性を確認するとともに、基礎的なデータを獲得するために、3~5歳の定型発達児30名を対象とし、アクセント型によって意味が異なる語を中心に「既知語同定課題」と「異音選択課題」を遂行した。「既知語同定課題」の結果、「雨」と「飴」のような語アクセント対比は3歳の時点で安定的に同定できるのに対し、「花はどっち?」と「鼻はどっち?」のような助詞の位置でのアクセント対比は5歳児でも難しいことを反応時間と正答率の両面で確認した。さらに、「異音選択課題」の結果から、oddity taskを用いた音の弁別には記憶スパンの影響があること、この影響は特にアクセント型対比、とりわけ無意味語において大きいことを確認した。
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