本研究は、定型発達児およびことばの獲得に特異的な困難を持つ特異的言語発達障害(SLI)児の音声知覚を検討・比較することで、言語発達の遅れを引き起こすメカニズムの実証的解明を目指す。平成23年度は3~6歳の定型発達児約80名を対象とし、アクセント型および長短母音によって意味が異なる語についての「既知語同定課題」と「異音選択課題」を行った。「既知語同定課題」の結果、アクセント対比による単語同定は全般的に難しく、中でも助詞位置でのアクセントが対比される尾高型と平板型(「花はどっち?」と「鼻はどっち?」)の知覚が難しいことを、反応時間と正答率の両面で確認した。さらに、「異音選択課題」の結果から、アクセント型の単語弁別は3~5歳にかけて成績が向上することが示された。また有意味語に比べ、無意味語のアクセントは正答率が低く、反応にも長い時間を要することが示唆された。こうした結果から、幼児のアクセント型の知覚はまだ発達途上にあることが考えられる。長短母音については、「既知語同定課題」において、アクセント型と同様に母音長で対比される単語の同定が難しいこと、一方「異音選択課題」からは、幼児であっても母音の長短の弁別に困難は伴わないことが示された。さらに、SLIの疑いがある子どもを含めて、ことばの発達に遅れが見られる5、6歳の幼児14名を対象とした「既知語同定課題」から、アクセント型、母音長で対比される単語のうち、尾高型と平板型のアクセント対比においてのみ、定型発達児と比べて正答率が低いことが示唆された。このことから、言語獲得の遅れは、助詞部のアクセントの違いのような、微細な音声知覚処理の難しさが要因のひとつとなっている可能性が示された。
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