研究概要 |
本研究では,使用者の意図した動作を実現でき,同時に使用者に大きな負担を強いらない使い勝手の良い筋電義手の開発を目指して,申請者らが提案した海馬型ニューラルネットを基に,非侵襲的手法によって計測した脳活動および腕の表面筋電位(EMG)から使用者の意図した手・腕の動きを精度良く推定するシステムの開発を目的とする.本年度は,更に多くの生理データを計測し,脳活動の利用方法を検討すると共に,昨年度構築したプロトタイプシステムを用いて前腕の動作を識別する実験を繰り返し行うことによりシステムの改良を行った.その結果,最終的なシステムは,非常に少ないEMGのデータ(1動作につき3サンプル)を学習するだけで,未学習のEMGデータセットから6動作(手首屈曲・伸展,握る,開く,前腕回内・回外)を約95%の精度で識別できることを示した.一方,時間分解能の観点から脳波を対象にして,様々な特徴抽出手法を適用したデータをシステムに学習させたが,識別率が向上する結果は得られなかった.これは,用いた特徴量が動作を反映していないことを示唆しており,脳波自体の有効性も含めて今後の課題である.また,構築したシステムは次のような特徴を持つことがわかった.(1)センサは主要な筋肉付近に大まかに貼付すれば良く,主要な筋肉が十分カバーできていれば必要以上にセンサを取り付けても問題ない(冗長性を許容できる).(2)使用者が事前に特別な訓練を行う必要はない(誰でもすぐに利用できる).従って,いつでも容易に新たな動作を追加して学習・識別させることも可能である.(3)日による体調の変化,疲労,センサの多少の位置ズレに対しで頑強である.これらの成果は,使用者に負荷の少ない筋電義手の開発に貢献できるものと考えられる.
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