研究概要 |
本研究の目的は,人工内耳や補聴器等の聴覚障害を補う機器による音声コミュニケーション能力を評価するための尺度を作成することである.本年度は,聴覚補助器による話者識別能力を評価するための尺度および,話者の発話意図判断能力を評価するための尺度の作成に関わる基礎実験を行った.話者識別においては,F0やフォルマント空間情報などが重要な役割を果たしていることが知られている.これらの音響パラメータが聴覚補助器でも伝達できるか検証するために,それぞれの音響パラメータを操作した人工音声による実験刺激セットを作成した.また,本実験刺激セットを使用し,骨導超音波補聴器ならびに人工内耳シミュレータによる聞こえを評価した.その結果,以下の二点が明らかになった.1)骨導超音波補聴器ではF0,フォルマント空間情報ともに伝達されている,2)人工内耳シミュレータではフォルマント空間情報の伝達能力が低い.この実験結果は,骨導超音波補聴器と人工内耳シミュレータの話者識別能力およびそれぞれの性能特性を明らかにするものであり,本実験セットによる評価が有効であることを示している。 また,発話意図判断能力を評価するため,「落胆」「感心」「疑念」「無関心」「中立」「強調」の意図を込めた「そうですか」等の発話による音声刺激セットを作成した。本実験刺激セットも骨導超音波補聴器および人工内耳シミュレータの評価に利用した。その結果,骨導超音波補聴器,人工内耳シミュレータともに音声の振幅差により区別される発話意図の識別に問題があることが分かった,この結果から,本実験刺激セットも聴覚補助器の性能を評価し,患者に対しそれぞれの聴覚補助器の性能を分かりやすく表現するために有効であることが示された.
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