研究概要 |
静的収縮中,運動皮質近傍の脳波と主働筋の筋電図との間には20Hz帯域のよく似たパターンの波形が観察され,Halliday et al.(Prog Biophys Mol Biol 1995)によって考案されたコヒーレンス解析法は,両波形の相関性を評価することで,運動皮質が筋活動をいかにコントロールしているかを定量評価出来る.本研究は,この「脳波筋電図コヒーレンス」を用い,運動出力の巧緻性との関連性に着目しながら,ヒトの運動の発現・制御機構を解明することを目的とする. 2009年度は,一般健常者ならびにバレリーナ・ウェイトリフターを対象に,四肢の様々な筋について,最大随意収縮力の30%程度の持続的筋収縮中の脳波筋電図コヒーレンスの計測を行った.一般健常者では,1)脳波筋電図コヒーレンスの値には大きな個人差が存在すること,2)上肢に比して下肢の筋においてゴヒーレンス値は大きい,3)近位筋に比して遠位筋においてコヒーレンス値は大きい,ことが示された,このことから,静的収縮中の脳活動と筋活動の同調性には筋間差が存在することが明らかとなり,筋の構造や日常生活における役割に応じて運動制御機構が異なることが示唆された.一方,長年の運動競技歴をもつバレリーナ・ウェイトリフターでは,ほぼ全ての被検者で,上肢のみならず下肢の筋においても脳波筋電図コヒーレンス値は低値に収束した.流麗な動きが要求されるバレーダンスと,爆発的なパワー発揮が要求されるウェイトリフティングとは,一見運動制御機構も大きく異なることが予想されたが,いずれの競技においても,ダイナミックな動きとともに,姿勢保持のための持続的な収縮も要求される.本研究の結果は,こうしたアスリートの日々のトレーニングが,脳活動と筋活動の同調性を低くする効果を持ち,このことが安定した力発揮へとつながる可能性が示唆された. ここまでの研究成果はすでに学術論文として投稿しており,現在リバイス中である.
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