研究概要 |
静的収縮中,運動皮質近傍の脳波と主働筋の筋電図との間には20Hz帯域のよく似たパターンの波形が観察され,Halliday et al.(Prog Biophys Mol Biol 1995)によって考案されたコヒーレンス解析法は,両波形の相関性を評価することで,運動皮質が筋活動をいかにコントロールしているかを定量評価出来る.本研究は,この「脳波筋電図コヒーレンス」を用い,運動出力の巧緻性との関連性に着目しながら,ヒトの運動の発現・制御機構を解明することを目的とする. 2010年度は,2009年内に得た知見である一般健常者にみられる脳波筋電図コヒーレンスの筋間差,ならびに運動競技歴による影響について論文をまとめ,Journal of Applied Physiologyに掲載された.また,新たな実験として,脳波筋電図コヒーレンスの収縮強度に依存した変化を前脛骨筋,ヒラメ筋,第一背側骨間筋,上腕二頭筋について検討したその結果,前脛骨筋においては,先行研究(Brown et al.J Neurophysiol 1998 ; Mima et al.Neurosci Lett 1999)同様,高強度になるに伴い,20Hz帯域のコヒーレンスのピークが消失し,35-60Hz帯域に有意なコヒーレンスのピークが出現した.一方,ヒラメ筋においては前脛骨筋のような収縮強度依存的な変化は観察されず,いずれの強度においても,20Hz帯域に同程度の有意なコヒーレンスのピークがみられた.上肢の二筋については,そもそものコヒーレンス値が低いため,コヒーレンスの顕著な変化が見いだしにくかったが,上腕二頭筋についてのみ,数名で前脛骨筋同様の収縮強度依存的変化が観察された.以上より,脳波筋電図コヒーレンスの収縮強度依存的変化には筋間差が存在することが明らかとなり,高強度収縮を実現するために中枢神経系がとる筋の活動ストラテジーには,筋間差があることが示唆された. この成果は複数の学会にて発表し,当該分野の専門家たちとの議論の後,学術論文を投稿,現在査読中である.
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