研究概要 |
本年度は,「運動の予測」に伴う心循環応答の特徴を捉えるために,運動準備期における中枢性循環調節指令(セントラルコマンド)に関連した心拍数増加と運動準備期から賦活が生じる大脳皮質運動野の対応を明らかにし,さらに運動開始後の反応との関連を検討することを目的とした。本研究では,運動準備期のセントラルコマンドの働きを誘発するため,準備期にカウントダウンを行った後に随意最大筋力の60%で掌握運動を静的に10秒間実施するプロトコールを用いた。実験後,準備期において心拍数の増加が最大となった試行(セントラルコマンドが準備期に働いたと考えられる試行)と最小となった試行(セントラルコマンドが準備期に働かなかった試行)の2試行を分析対象として,心拍数変化と近赤外分光法による大脳皮質運動野の脳酸素化動態を試行間で比較した。さらに,準備期のセントラルコマンドによる心拍数増加が,運動開始後の運動野の酸素化亢進と心拍数増加に及ぼす影響を検討した。その結果,準備期については,心拍数増加が最大であった試行は対側運動野の酸素化亢進が顕著に示されたのに対し,心拍数増加が最小であった試行においては酸素化亢進が示されないという,心拍数変化と運動野の賦活様式の対応がみられた。このような運動準備期の試行間の差に対し,運動開始後は両試行ともに運動野の酸素化亢進および心拍数増加がみられたが,試行間には差がみられないという結果を得た。これらの結果から,運動準備期におけるセントラルコマンドに関連した心拍数および運動野の賦活は運動開始後の両指標には影響せず,運動開始後の心拍数および運動野の反応には,運動開始後のセントラルコマンドや末梢性入力の増加が影響すると推察された。これらの知見は,運動の予測と運動開始後のパフォーマンスとの関連を検討する上で,有効な基礎的データになるものと考えられる。
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