研究概要 |
本年度は運動開始の意思決定を司る前頭前野に主眼をおき,掌握運動時の前頭前野の酸素化亢進の特徴を明らかにすると共に,同時計測した心拍数との関連から運動準備期のセントラルコマンドへの関わりを検討した。また,同部位において,運動時には顕著な変化が示される頭部皮膚血流を同時計測し,記録された脳血流信号に対する皮膚血流の影響についても検討した。本研究では,昨年度と同様に,運動準備期のセントラルコマンドの働きを誘発するため,準備期にカウントダウンを行った後に随意最大筋力の80%で掌握運動を静的に実施するプロトコールを用いた。掌握運動は,運動肢の側性の影響を検討するため,右手のみ/左手のみ/両手同時の3パターン用いた。また,前頭前野は「運動の予測」に関連する領域であることから,準備期のカウントダウンを検者が被験者に対し呈示する場合としない場合の2パターンを用い,予測的準備が可能である場合と可能でない場合の違いも検討した。その結果,運動の予測的準備ができる場合とできない場合の,準備期における脳酸素化動態は左右の前頭前野で異なっていた。すなわち,左前頭前野においては予測ができる場合よりも予測ができない場合に準備期の酸素化が低下したのに対し,右前頭前野においては両試行で差がみられなかった。また,同部位の皮膚血流および心拍数についても,右前頭前野の結果と同様に試行間の差がみられなかった。この結果から,予測的準備には左前頭前野が関与し,また,心拍数に反映される準備期のセントラルコマンドの働きには右前頭前野を含めた他の領域の関与が示唆された。これらの知見は,運動の予測に関わる大脳皮質領域の解明とセントラルコマンドとの関連を検討する上で,有効な基礎的データになるものと考えられる。
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