研究概要 |
本年度は運動準備に伴う予測性循環反応と関連して賦活する脳部位を同定するため,掌握運動に伴う脳酸素化動態変化を頭部10箇所から計測し,同時計測した心拍数との対応を時系列的に検討した.また,準備期のセントラルコマンドの働きを詳細に調べるため,心拍変動からの自律神経機能の変化も検討した.実験は運動準備期に呈示されるカウントダウンに引き続き掌握運動を実施する課題(運動課題)と運動を行わない対照課題を用いた.運動課題は随意最大筋力発揮(100%課題)およびその5%の発揮(5%課題)の2種類とした. その結果,循環反応については,100%課題では運動開始30秒前から運動開始時まで持続的な心拍数増加がみられたのに対し,対照課題および5%課題では,顕著な心拍数増加はみられなかった.また,自律神経機能においては,100%課題では安静からの顕著な心臓副交感神経の抑制がみられたが,5%課題では差がみられなかった.このように100%課題においてのみ,準備期におけるセントラルコマンドの発現が確認された.次に,この循環反応と対応を示した大脳皮質領域は,頭部10箇所中,反対側運動前野領域のみであった.この部位では,100%課題および5%課題において酸素化が亢進し対照課題との間に差がみられたが,心拍数と同時期に酸素化亢進が生じたのは100%課題のみであった.この結果から,大脳皮質運動前野領域は,高い努力が必要な運動を実施する場合において,運動開始30秒前という比較的早期から心循環系への指令であるセントラルコマンドと関連して賦活するという特徴が示された.そして,大脳レベルにおいても,運動出力前からの持続的な賦活が生じ,高強度の運動出力に対する準備活動を生じていることが明らかとなった.これらの知見は,運動の予測に関わる大脳皮質領域とセントラルコマンドとの関連を検討する上で有効な基礎的データになると考えられる.
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