研究概要 |
脳内の調節機構には,神経細胞を促進または抑制する神経伝達物質の働きが極めて重要である.その中でも,セロトニン(5-HT)は体温調節機構において主要な神経伝達物質であることが示唆されている。本研究では,熱放散系に関与する部位である腹側被蓋野(Ventral tegmental area ; VTA)に注目し,VTAの体温調節機構における5-HTの役割を解明することを目的とした. 本年度は基本的に昨年度(平成21年度)と同じ条件で実験を行い,VTAに5-HT作動薬を灌流し,VTAの5-HT量を変化させた時の体温調節反応および5-HT放出量を計測した.薬理刺激実験は環境温度23℃の下で行い,1時間の安静期間後に5-HT再取り込み阻害剤(Fluoxetine, Citalopram)の灌流を1時間行った.なお,5-HT作動薬灌流中以外はRinger液を灌流した.薬理刺激の濃度は参考文献を基に,幾つかの濃度を試みた.実験終了後,プロモフェノールブルー(0.2%)を灌流させてダイアリシスプローブ先端の透析膜近傍の組織を染色し,脳を摘出した.脳をホルマリンで固定後,厚さ100μmの切片標本を作製しプローブ挿入位置を組織学的に確認した. FluoxetineまたはCitalopramの灌流投与により,VTAの5-HTが有意に増加した.ノルアドレナリン,ドーパミンは多少増加したものの,統計的に有意差は認められなかった.VTAでの5-HTの増加に伴い,ラットの深部体温は約0.5℃低下し,熱放散の指標である尾部皮膚温の上昇を伴った.熱産生の指標である心拍数の変動は見られなかった. 以上の結果より,VTAの5-HTは体温調節機構における熱放散機能に関与していることが示唆された.
|