研究概要 |
様々な運動(例えば,ボールを捕るとき)に伴って外界や物体と身体の間に生じる力学的な変化に素早く対応するためには,知覚や判断に基づく運動(随意運動)だけでなく,感覚入力から無意識的に短時間で実行されるリアクション(反射)運動を適切に調節することが不可欠である.本研究では,脚気の検査でよく知られている体性感覚反射(いわゆる伸張反射)を題材に,この反射が運動中にどのような規範で調節されているかという情報処理の仕組みを解明してゆくことを目的としている.昨年度は,運動遂行中の不意の力学的変化に対して反射の大きさが非常に素早く(0.1秒程度)修正される,という反射調節の「時間的特性」に関する知見を得た.本年度は,この実験の定量的評価を進めるとともに,反射調節の「空間的特性」に関する実験を試みた.実験ではマニピュランダム装置を用い,上肢の直線運動を行っている際の手先軌道が仮想力場によってズラされた場合に,ズレの大きさの見え方(視覚フィードバック)の操作が伸張反射の応答に影響を与えるかを調べた.その結果,物理的な手先位置のズレは同程度であっても,ズレの見え方の大小に伴って,伸張反射の応答も(視覚フィードバックを操作しない条件に比べて)増減することが観察された.この課題で被験者は,なるべくズレを小さくするよう運動を行うことを教示されているため,見た目のズレが大きくが生じた際に,それを補償するように反射が増大することは利に叶っている.一般的に,伸張反射は体性感覚に基づく姿勢補償反応と考えられてきた.しかしながら,体性感覚と視覚情報とにギャップを作り出した本実験の結果から,必ずしも体性感覚情報だけで反射調節のゴールが決まるわけではなく,求められる課題の状況に応じて,他の感覚情報も統合しつつ応答の大きさを調節していることが示唆された.
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