研究概要 |
運動技能の教授・学習場面においては,他者と同じように練習を行っても,なかなか技能の向上が認められない学習者が見受けられる。このような学習者は「運動不振」と呼ばれる。運動不振を呈する者が運動を苦手とする理由として,知覚-意思決定-運動実行という一連の情報処理プロセスのどこかに問題(ボトルネック)があることが考えられる。そこで,本年度は,情報処理プロセスの最初である視覚的知覚の段階に着目し,運動不振学生の視覚的能力の水準を検討した。 被験者は,運動不振学生17人(全て女性)であった。運動不振の判定には,大学生版運動不振尺度(古田,2008)を用いた。視覚的能力として,(1)静止視力,(2)KVA動体視力,(3)DVA動体視力,(4)コントラスト感度,(5)眼球運動,(6)深視力,(7)瞬間視,(8)目と手の協応動作,(9)視野角の9項目をそれぞれ専用の機器を用いて測定した。 測定結果を,真下(2002)の視覚的能力の評価基準を適用して5段階(5高い~1低い)で評価した。その結果,1又は2の低い評価だった者は,17人中,静止視力で10人,KVA動体視力で14人,コントラスト感度で7人,眼球運動で11人,深視力で11人,目と手の協応動作で17人,瞬間視で2人であった。DVA動体視力と視野角については評価基準が適用できなかった。このように,運動不振学生においては,コントラスト感度と瞬間視を除き,視覚的能力において標準以下を示す者が多い傾向が明らかとなった。意思決定及び運動実行段階におけるボトルネックの可能性については未検討であるが,知覚段階の情報処理がパフォーマンスを制限している可能性が示唆された。
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