研究概要 |
運動技能の教授・学習場面においては,他者と同じように練習を行っても,なかなか技能の向上が認められない学習者が見受けられる。このような学習者は「運動不振」と呼ばれる。運動不振を呈する者が運動を苦手とする理由として,知覚-意思決定-運動実行という一連の情報処理プロセスのどこかに問題(ボトルネック)があることが考えられる。そこで,今回は情報処理プロセスの最後である運動実行の段階に着目し,運動不振学生の体力の水準を検討した。 被験者は,運動不振学生13人及び非運動不振学生15人であった。被験者は全て女性であった。運動不振の判定には,大学生版運動不振尺度(古田,2008)を用いた。体力として,(1)上体起こし,(2)斜め懸垂,(3)20mシャトルラン,(4)50m走の4項目を測定した。 対応のないt検定を用いて運動不振学生と非運動不振学生の間で,体力の4項目において違いがあるか分析した結果,全ての項目において非運動不振学生の方が有意に優れていた。 前年度の研究によって,運動不振学生は非運動不振学生と比べて,眼と手の協応動作や眼球運動等の視覚的能力が低いことが明らかとなっている。これは,知覚段階にボトルネックがあることを示唆している。しかし,今回の結果において,運動不振学生は,運動実行段階の能力と考えられる体力も低かったことから,知覚段階だけではなく運動実行段階においてもボトルネックが存在することが示唆された。このため,運動不振を改善するためには,単一の能力ではなく視覚的能力や体力等の能力を総合的に向上させることが必要であると考えられる。
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