本研究は3年間のうちに、日米の4つのボディワークを対象として、各考案者の主張とその理論を明らかにするとともに、相互比較を可能とする理論的枠組みを提示することを目的としている。22年度はイデオキネシスのM.トッド(1880-1956)と野口体操の野口三千三(1914-1918)を主たる対象とし、指導ツールとして用いられるイメージを切り口として分析し、比較考察するという作業を主に進めた。ここでいうイメージとは、実践内容となる個々の姿勢や動き及び身体の所与感や動きの原理を、メタファーとして示す視覚情報、すなわち図像や現象のことである。 結果、両者には共通して、身体は効率的な動きを遂行する能力を潜在的に有し、その潜在的な能力は、動きや姿勢に対する先入観によって歪められているという考えがあることが指摘された。また、両者とも動きの指導においてイメージが役立つと考え、学習者が一人称の視点から動きに投射するイメージを提示する様子が共通に見られた。一方、トッドは特定のイメージを提示するが、野口はそれに加えて学習者各自が動きの経験から創造的に想像するものとすることで、「快・楽」という拡散的な感覚の記憶を強化する役割をイメージに見出していると指摘された。こうした両者の相違点は、効率的な姿勢や動きを歪める要因を、文化(姿勢に対する誤った先入観や道徳)に見るか、個人(客観的な数値を自己の判断材料にしやすいという傾向)に見るかという点に起因していると考察された。本研究は、学校体育の領域「体ほぐし」で指摘される身体の内的な状態への気づきが何故重要であるかについて、トッドと野口の事例を通して具体的な説明を示すことができたという点で意義があると思われる。
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