本研究は、日米4つのボディワークを比較することで、各考案者の主張とその理論を明らかにするとともに、領域「体ほぐし」を支える思想的基盤を提示することを最終的な目的としている。 23年度は、野口整体(野口晴哉)とボディ・マインド・センタリング(BMC、B.コーヘン)を対象に、「不随意な動き」を比較の焦点としながら分析考察を進め、両ワークの実践目的、身体観、「不随意な動き」の経験の内容について明らかにすることができた。 実践の究極の目的は、野口整体では「全生」、BMCでは「知の状態」と異なるが、身体のあらゆる動きは心(意図や情動)の動きの現れであり、身体は動きを通して自らのバランスをとっているとする点で共通する。野口はその働きを身体の不随意な動きに見出し、「活元運動」という不随意運動を通してその働きを訓練するとしている。コーヘンは、各器官や細胞の所在を内的に経験し、細胞が先行する特有の動き(皮質によらない不随意な動き)を経験することで身体のバランスが促進されるとしている。両ワークは学習の導入段階に、解剖学的説明を行うか否かで大きく異なり、それは実践に必要な心の状態の説明の違い(「天心」と「心が開いた状態」)にも現れている。一方で、両ワークとも「接触」を重要なツールとし、その理由として細胞についての考え方において一致が見られる。 両ワークは実践を通して、随意な動きの能力が向上するとともに情動や思考の可能性が広がり、他者との交流はスムーズになるとする点で共通する。領域「体ほぐし」における「気づき、調整、交流」という要素が両ワークに確認された。 総括すると4ワークの考案者らは、意識下の動きまでをも対象としながら、イメージ、呼吸、接触、動きの型等を指導ツールとして、その経験を可能にし、内的な状態への気づき、身体の調整、動きと思考の選択肢の増加、自他理解の深まりが学ばれるとしていると指摘できる。
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