平成22年度は、各地域における野外教育の独創性や固有性を明らかにすることを目的に、各地の実践について比較史的・総合的な検討を進めた。その結果としては以下のようになる。 第一に、大阪市などの都市化の進展が激しい地域では、林間学校や遠足等において実施された野外教育の内容に、地域に関する要素がほとんど含まれていなかった事が明らかになった。この点については、当時の林間学校などの野外教育が、「身体虚弱児」向けの欧米型の教育実践をモデルに企図され、全国的にある程度定形化されたプログラムに基づき実施されていたことが、理由として挙げられる。このため大阪市については、林間学校や遠足以外に野外教育的な要素をもつ実践がないか、さらに調査を進める必要がある。 一方で、香川県高松市のように、野外教育の活動内容の中に、地域の史跡、産業、文化の体験活動を取り入れていた事例も確認できた。高松市においては、従前より郷土教育を活発に展開しており、この郷土教育を基盤として林間学校などの野外教育を企図したため、他の地域と比較して特色ある野外での実践につながったと考えられる。同様の実践は他の地域においても見られると考えられるので、今後は他の郷土教育が盛んな地域に分析の対象を広げ、より多くの事例を集めることを目指す。 平成22年度の研究では、少数ではあるが、地域型の野外教育実践を確認することができた。これらは、これまで比較的主流と考えられてきた、欧米をモデルとする大正期の都市型野外教育の理論と実践の枠組みからは一線を画した画期的な実践だったと考えられる。平成23年度においては、対象地域を広げながら、同様の野外での実践が確認できないか事例検討を進める予定である。
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